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Ver.1: 2000.08.23 Ver.1.1: 2000.09.06 |
下の写真を見よ!ついに、この"Think difficult."が書籍になったのである。
というわけで、残念ながら嘘である。 このたび我輩が書かせていただいたのは、"Think difficult."な本ではなく 「Shade for Linux側溝レッスン、もとい、速攻レッスン」なる書籍である。 かなり手前みそであるが、宣伝を兼ねて今回は番外編としてこの本の執筆の裏側についてお伝えしよう。Linuxについては説明はいらんと思うが、 Shadeとはエクスツールズ社の3次元CGソフトウェアである。 で、我輩の本業が(実は)CGである関係上、 そのLinux版発売に併せて本の企画が回ってきたのであった。 これ以降ではこの本を「陰本」と略させていただく(いんぼん、って何かいやらしそうだなあ)。
で、始めに載せた通りに表紙のCGに我輩が作成したものが採用になったのであるが、 そこはそれ、ちゃんとThink difficult.の宣伝もやっておいたわけである (そんな宣伝よりThink difficult.の本文をもっと増やせって? それは正しい指摘だが、 締め切りのある方を先にやるのが清く正しい大人のデフォルト行動である)。
出版元の工学社の人が自ら、 「工学社書籍では空前の文体!」と評するほど、いつもの口調は健在である。 工学社の書籍では基本的に「ですます調」で書くのが決まりらしかったが、 無理を言って「である調」を通したもらったのである。ありがたい話じゃ。 だいたい「ですます」では、ちいとも気合いが入らなくて300ページも書けんぞ。 いいとこ3ページだ。
内容はというと、巷で流行りの「びしょうじぉ」CGなる題材は一切無視し、 ばりばりに原理から説明しているのである(目次はこちらにある)。 他のShade本にありがちな
「○○すると△△になります」という単なる暗記用パターンを避けて、
「□□しようとしたら、なぜか×△になってしまった。 じゃあ□○すると、今度は△×になってしまった。 理由は○△□だからである。ということは、○○すればめでたく△△になるのである。」というパターンになるように書いてみた。 「どうやったらダメか?」「なぜダメか?」を理解することで、 結局はそのものへの理解が深まるし、 「うまくいく」方法自体もさらに覚えやすくなると思ったからである。 知りたい機能をマニュアル的につまみ食いするための本を目指したわけではなかった (一度最後まで通して読めば、あとは索引を利用することでリファレンス的にも使えるが)。 そもそも、まえがきのいちばん最初に 「本書はShade for Linuxのマニュアルではない」と書いてあるのである。
Shadeというソフトウェアは物事の切り分けがうまくできていて、 一つの経験、一つの技術が形を変えていろいろな場所で転用できるような絶妙な設計がなされている。 したがって、
「AをBする」というような知識の断片をひたすらに網羅して覚えるより、
「AをCしたらDになるし、EしたらFになる。そうしないで、Bすればうまくいく。」という奥行きのある経験を「うまくいく理由/うまくいかない理由」を含めて学ぶことで、 似たような場面に遭遇したとき、より応用がききやすい、はずなのである。 教育テレビでやってる小学生の理科の実験のようなもんだ。 このような信念のもと、特定のCGソフトウェアの入門書としてはかなり実験的な姿勢で書かれたのが、 本書というわけである。
執筆開始時点では、対象とすべき読者層の可能性として
さて、どんな環境で執筆したかと言えば、emacsでシコシコ書いてLaTeXでタイプセット、である。
emacsはテキストエディタの一種であり、
LaTeXは \sum_{i=1}^{\infty}\alpha_{ij} と書くと
と表示されるソフトウェアである
(うーむ、こんな説明でいいのだろうか)。
原稿でもメールでもプログラミングでも、我輩がテキストを書くときはLinuxを使う
(ちなみに音楽を作るときは林檎、精神修行は窓際で行う)。
LinuxのディストリビューションはMSSの時はPlamo1.3であったが、
今回はShade for Linuxをインストールする関係でもっと新し目のディストリビューションを入れる必要があり、
VineLinux2.0CRを使ってみた。
日本語環境のまとまり具合いはなかなかにいい感じである。
最低限これくらいはしっかりしていないと、窓際族の取り込みはできないであろう。
仮名漢字変換にはWnn6を使っている。Ver1.0のころから使っているが、増えた機能はほとんど使っていない。
要するに、エディタでちゃんと漢字が出てくれば用は足りる。
LaTeXでタイプセットしたにはしたが、 出版社に実際に送ったのはベタなテキストとLaTeXの出力をPostScriptにしたファイルである。 あちらでは、PSファイルを元にテキストを一からレイアウトしていくわけである。 こりゃあ面倒な作業じゃのう。 理学書などはLaTeXで入稿してそれがそのまま印刷されるものもあるが、今回はそうはならなかったわけである (我輩も昔はLaTeX清書のバイトなどもしたものだが)。
今回は画像たっぷりでデータ量がでかったので、原稿はCD-Rに焼いて出版社に送った。 もちろん、LinuxでCD-Rを焼いたのである。 もう30枚くらい焼いたが、一枚も失敗がないのはたいしたもんである。 一説には、カーネルコンパイル中でもちゃんと焼けるという話である。 さすがにコンパイル中は試さなかったが、 ネットワークを通じた遠隔操作(要するにXコマンドを-displayオプション付きで起動する)でもちゃんと焼けることは確認した。 窓や林檎で「CD-Rを焼くときはネットワーク機能を切りましょう」などと言われているのとは大違いである。 ちなみにX-CD-ROASTというソフトで焼いている。 締め切りが近づいてきてCD-Rを送っている時間がない場合はFTPで、 しまいにはゲラをFAXでやりとりして、めでたく校了となった。 今考えても、当時の津波のような眠気を思い出してしまう。
膨大な画像を除いた、テキスト部分の量は524KBになった。 400字詰めの原稿用紙に隙間なしで書き込んだとして、655枚である。 我ながら、よくもまあそんなに書きやがってという感じである。 524KBにはLaTeXのコマンドも多少含まれているから、 実際には隙間を空けながら原稿用紙600枚といったところだろう。 これだけの量をどうやって書いていったか、というのが下のグラフである。 律儀な我輩は執筆中ほぼ毎日、 その日までに原稿が合計で何バイトになったか記録していたのである。
執筆には全体でほぼ4ヶ月かかった(実際には、その2ヶ月前からネタ集めを開始している)。 その間、友人と温泉に行った以外はほとんど自由になる時間を完全に執筆だけにあてている。 もちろん、平日も休日もない。 D論を書いたときくらい疲れたぞ(D論は英語だったのでもっとたいへんだったが)。 というわけで、今年の2月あたりから7月までほとんど休みなしで人知れず奮闘していたのだ。 Think difficult.が更新できなかったのも納得してほしいもんである。
原稿量に関して言えば、前回のMSSでの我輩の分は173KBくらいだったが、
テキストと画像を含めたファイル全体の合計は998MBにもなってしまった。 後の利用を考えて、画像をBMPのまま保存しておいたためでもある。 JPEGなぞで詰め込むと、文字の周りがジグジグと汚くなったりしてみっともないからである。 その998MBをbzip2で圧縮したら50079469Byteになったことから、 定価の2500円で割ると1円あたり約20KBの情報が得られる計算になる。 もちろん、情報以外に物質として表紙と152枚の紙もついてくるが。 こう考えると、1円で結構な量のデータが買えるものだという気もするが、 我輩の本以外でも、たぶん数字は似たようなもんだろう。
今回の陰本を書いてわかったことは、
このThink difficult.を読んでくださる人とShade for Linuxに興味を持っている人がどの程度重なるのかはわからないが(5人くらいか?)、 我輩がここで言いたいのは「買ってね」ではなく、
一冊の本には(たぶんどんな本でも)膨大な労力が注ぎ込まれているのだということである。 我輩も今回の執筆で痛感したのであった。
さ〜て、こんな我輩に3作目の本を書かせてくれる涙ものの出版社は存在するのだろうか? 窓とか林檎とか単系とか超漢字とか、今度は真正面からOSについて書きたいんですけど?
PS.
陰本には他にもThink difficult.が登場しているところがあるので、
暇な人はさがしてほしいもんである(立ち読みでも見つけられるかもしれない)。
他にもチマチマとした遊びがいろいろと入れてあるので、気になる人は要チェックである。
だが、MSSと比べて部数が遥かに少ない(10分の1とはいかないまでもそれに近い)ので、
チャンスを逃すと二度と見つからないかも、とちゃっかり脅しておくのである。
ちなみに、アキバのザコンと池袋のビックPC館には置いてあるのが確認されている。