アキレスと亀のパラドックス

  • 書籍のP56では紙面の都合で詳しく書けなかった内容について、補足します。

哲学者ゼノン

 ゼノンは紀元前5世紀に活躍した、古代ギリシアの哲学者です。彼はさまざまなパラドックスにより、人々を悩ませたといいます。

パラドックス(逆説)
一見正しそうで反論しにくいが、現実的には誤っている考えや説のこと。

アキレス(アキレウス)と亀のパラドックス

その昔、足の速いアキレスと動きの遅い亀が競争することになりました。 ハンデとして、アキレスは亀より後ろの位置からスタートしました。

paradox.png
俊足のアキレスが亀に追いつけない?

アキレスが亀のスタート位置まで走る間に、亀は何メートルか進んでいます。 その亀の位置までアキレスが走る間に、亀はさらに前へ進んでいます。 その位置までアキレスが走る間に、さらに亀は…

このようにして、俊足のアキレスは永遠に亀に追いつけない、というパラドックスです。

拙著(56ページ)では、

数学的には、この話が成り立つのは「アキレスが亀に追いつく瞬間まで」に限定されるため、
パラドックスとはならない(追いつく瞬間までは、追い越すことができないのは当たり前である)。 

と解説していました。 これではわかりにくいかもしれないので、もう少し補足します。

この話の問題点

このパラドックスでは、常に

  • まず亀がいた位置までアキレスを動かし、
  • その後、その間にさらに亀を動かす

という話の進め方をしています。アキレスが動いて追いついた後で亀を前に進めるので、結局、必ず亀が前にいることになります。

また、この手順を何回くり返しても、ゴールまでたどりつけません。 これを、順番に考えていきましょう。

注意
もし、亀がゴール直前からスタートするなら、亀が先にゴールして終わる、ということはあり得ます。しかし、それではパラドックスとしての面白みが出ません(明らかにアキレスが追い抜けるはずなのに、永遠に追い越せないと主張するところに意味があるからです)。

具体例で考える

話を単純にするため、

  • アキレスはゴールまで100m、亀はゴールまで50mの位置からスタート
  • アキレスは秒速10メートル、亀は秒速1メートル

とします。

アキレスが100m走るのに、10秒かかります。 一方、亀が50メートルを走るのに50秒かかりますから、アキレスが先にゴールするのは明らかです。

アキレス
0秒50m0m
1秒51m10m
2秒52m20m
3秒53m30m
4秒54m40m
5秒55m50m
6秒56m60m←逆転
7秒57m70m
8秒58m80m

1秒ごとに両者の位置を表にしてみると、5秒後と6秒後の間で逆転しています。

ゼノンに従うと

ゼノンのパラドックスでは、まず亀のスタート位置までアキレスが走ってきます。

  1. 0m → 50mの位置までアキレスが走るのに5秒
  2. 5秒の間に、亀は50+5=55mの位置へ

続いて、その位置へアキレスが走ってきます。

  1. 50m → 55m の位置までアキレスが走るのに0.5秒
  2. 0.5秒の間に、亀は55+0.5=55.5mの位置へ

さらに、その位置へアキレスが走ってきます。

  1. 55m → 55.5m の位置までアキレスが走るのに0.05秒
  2. 0.05秒の間に、亀は55.5+0.05=55.55mの位置へ

だんだん、1回あたりに進む距離が減っていきます。

eq1.png

進む距離は、毎回1/10になっていきます。 50をくくり出すと

eq2.png

となります。

数学の等比数列の公式を使うと、初項1で公比1/10の数列の和は、 10/9 = 1.11111…になります。 上の式に戻すと、アキレスも亀も 50×1.11111… = 55.55555…mしか進めないことになります。

55.55555…mとは

実は、この55.55555…mとは、まさに

アキレスが亀に追いつく位置

なのです(スタートから5.55555…秒後)。

ということは、ゼノンのいう「アキレスが亀に追いつけない」というのは、単に

アキレスが亀に追いつく位置より前では、絶対に追い越せない

という、ごく当たり前のことを述べたに過ぎない、ということがわかります。 前提である「アキレスが亀に追いつく位置より前では」という部分が話の中に巧みに紛れているため、 後半の「絶対に追い越せない」だけを見て頭を悩ませてしまうのです。

実際の競争では、追いつく瞬間を越えても走り続けますから、アキレスが亀を追い越して、先にゴールすることになります。

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