Tales of Mados & Ringos / 真・窓と林檎の物語
トップ窓と林檎 → 林檎再生…3 1997.10.27

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真・窓と林檎の物語
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林檎再生へのシナリオ(下)

  ついにこの3部作も完結編である。 今一度繰り返しておくが、ここに述べる文章は、これから起こる事の予測ではなく、 あくまで我輩の願望を文章にしたものである。 ありもしない数字やらチップ名やら多数出てくるが、 全て想像上の産物であることにも注意しないといけない。 また、これは1999年の春の時点での物語として書いていくので、 「今年」というのは99年の事であり、それ以前のことは全て過去形で記してある。

  今回はPowerPCと陰照のチップの性能競争を中心に展開してく。 さっそく始めよう。

  まず、PowerPCのチップ供給メーカーの陣容の(予想外の)変化について触れておくべきであろう。 陰照-HP連合の新しい64ビットアーキテクチャのMPU「回すと」が前評判通りの性能であった場合、 さらに10年間は陰照の独占が続くと恐れを抱いたMPUメーカ各社では様々な提携やら方向転換がなされた。

  CHRPが御破算になりそうだった97年末の時点で、モトローラはPowerPCの中で組み込み用途など、 低価格MPU路線に研究開発ラインを限定した。その後、数カ月はIBMだけが開発を進めていたが、 98年3月、AMDが突如として社内で密かに開発していたPowerPC互換チップを発表、 PowerPC陣営に加わった。AMDとしては、多くの互換チップメーカが競争を繰り広げ(99年時点で8社)、 あまりに複雑化している陰照チップの互換製品と作るより、 ハードウェア面で遥かに競争の少ない市場であり、 いまだ性能向上を図りやすいPowerPCへと目を向けたのである。 当面はAMDはその工場設備の20%程度をPowerPC生産で使用するが、 売行きによっては40%まで増やすこともあり得るという。

  一方、DECは一時、陰照にそのAlphaチップの技術を売り渡すと噂されたが、 結局は陰照が安く買い叩こうとしたためにその話は流れた。 実際、陰照がDECの技術を買い取ったところで、 Pentiumなどの陰照プロセッサとDECのAlphaはアーキテクチャがあまりに異なるので、 その技術がすぐには役に立たないという事もあったし、 陰照はHPの提携で十分だと考えていた事もある。その代わり、DECはなんとPowerPC陣営に近付いてきた。 この技術提携は、市場規模という意味で衝撃が大きかった( PowerPCはRISCプロセッサとしては断トツの生産量1位である)。 陰照-HP連合の対抗馬として最有力なこのDEC-PPC連合では、 DECがAplhaチップで培った高速化技術をPowerPC陣営にライセンスし、 IBM,AMDがその小型・低消費電力化を進めてPowerPCチップのさらなる普及を目指すという形をとっている。

  このようなチップメーカの陣容の変遷の間にも、MacOS機の強力な推進エンジン、 各種PowerPCチップは相変わらず順調に性能向上を達成していた。 特に98年は、クロック周波数が400MHzから600MHzへと大幅な性能アップを達成した年であった。2次キャッシュのバス幅を倍にし、 浮動小数点演算をより高速化させた改良型750である750eは466,533,600MHzがラインナップされ、 98年末にはApple Hard製の10万円台後半のエントリー機や安価な互換機に大量に採用されるなど、 事実上、新機種の性能としての最低ラインになった。 750eは安価で省電力というPowerPCの利点を保ちつつ、 533MHz版でSPECint95=27,SPECfp95=26と強力なパワーを誇っている。 533MHzと言えば、その昔Exponential Technologyという会社のX704というチップも533MHzであったが、 750eの消費電力は704の8分の1で性能は2.9倍である。

  ちなみに、陰照のPentiumIIIも500MHz版でSPECint95=22,SPECfp95=19と、 性能面ではそれほど750eに劣ってはいないものの、価格が$1400である点で、 PowerPC750e/533の$470の3倍と大きく水をあけられている(このへんはあとで詳しく)。

  さらに、今年2月の幕張のEXPOで正式発表されたばかりの最新鋭PowerPC760(コードネーム Light Year)を搭載したMacも4月に出荷が開始される。 760は666,733,800MHz版がリリースされる予定であり、 性能では666MHz版でSPECint95=41,SPECfp95=46程度と、 あの陰照の「回すと」にも対抗し得る驚異のチップ(しかも価格は3分の1以下)である。 UMAX製の760/666を搭載した試作機ではMacBench5.0で7000を越える鬼のようなスコアをたたき出したという噂もあり、チップ性能のインフレには驚くばかりである。

  さらにさらに、PowerPC陣営は驚くべきチップをまだ用意している。 PowerPC 770(コードネーム Giga Drive)と呼ばれるこのチップは、 当初は800〜900MHz版として登場する予定だが、 その名の通り、今年中には1GHzの大台に載ってしまうらしい。 ついに、お茶の間マシンでギガクロックの時代が到来するのだ。

  同価格で1.5倍や2倍程度の性能向上では、過 去のソフト資産を捨てて陰照チップからPowerPCへの乗り換えを説得するのは困難であったが、 陰照チップと比べて2倍の性能で半分の価格を目指す"Double Score with Half Price"というPowerPC陣営のスローガンが98年後半からついに現実のものとなり、よ うやく市場が大きくPowerPCに傾き始めた。 陰照チップとの価格性能比が4倍になったところで初めて、 人々は過去の資産と決別する意志を固めたようだ。

  ここらへんでようやく、もう一方の主役、陰照についても語るとしよう。 陰照がHPと組んで作り上げた、「回すと」は同社初の64bitチップとして華々しい宣伝のもと、ほぼ予定通りに昨年末に発表された。 当初のクロックは550MHzと600MHzの2種であったが、今年になって666MHz版もアナウンスされた。 公称の性能値は600MHz版でSPECint95=37,SPECfp95=67とかなり高い(特に浮動小数点演算)が、 陰照社内ではベンチマークを取るときに時空間を歪ませる事が可能という噂もあり、 外部の公的機関によると、それぞれ32,55程度が最高らしい。 しかも、「回すと」の発表記者会見では誰もがその異様な大きさにド肝を抜かれてしまった。 恐ろしく太い電源ケーブルや、取り外してそのまま室内用扇風機として使えそうな冷却ファン、 幅4cm、長さ24cmの巨大な「スロット64」、そして弁当箱のような巨大なMPUパッケージ、 その全てが米の国の「大きさこそ正義」を実践していた。

  技術的には当初の予想通り、VLIWライクなMPUに仕上がっているが、 陰照の旧チップをある程度高速に実行させるため、 機能としてはPentium相当の規模の回路が内部に組み込まれた結果、より一層巨大化してしまった。 HP側としてはそんな過去の遺物を内部に残すのは大反対であったが、 当初の試作チップでソフトウェアによるエミュレーションのみで旧来のソフトを実行させたところ、 PentiumIII/500MHzの80%程度のスピードにしかならなかったため、 陰照側は慌ててPentium+MMX3相当の機能をハードウェアで内部に実現させた。 陰照はPentiumからPentiumProへの移行で犯した失敗(MPUの世代が進むのに逆に遅くなる命令群があるという設計)を繰り返したくなかったのだ。 ちなみに、まっとうなVLIW用コンパイラで専用にコンパイルされたアプリケーションは、 PentiumIIIの/500の1.7〜2.4倍程度の性能を発揮でき、何とか面目を保った形である。

  が、問題はその価格であった。 「回すと」はPentiumIIIの3.5倍の$4500からなのである。 性能向上が2倍ほど(しかも再コンパイルが必要)な割に価格が3.5倍なので、 もっとド派手な性能アップを予想していた業界アナリストの中には、 陰照の先行きに微妙な陰りが出て来たと見る向きもある。 どうしてそんな高価になってしまったのかというと、やはり「デカイ」からである。 チップサイズは378平方mm、消費電力は86Wである(さらにちなみに我輩の半田ゴテは30Wである)からして、 もう聞いてるだけで汗が出て来そうである。 というわけで、99年第2四半期に出荷が開始される予定ではあるが、 2001年ころまでは一部のサーバ機に使われるか、 マニアが買って暖房器具代わりに使うしかないというのが、大方の予想である。

  このように「回すと」ははっきり言って期待外れであったが、 既存の32bitアーキテクチャのPentium系統の方は、強引ながらも比較的まともな進化を遂げて来た。 PentiumProで内蔵され、PentiumIIで外部に出された2次キャッシュを再び新MPUでチップに内蔵させるとともに、 MMX2に多少振りかけをまぶしたMMX3も同時に搭載させ、 それを"PentiumIII"として売り出した。 これはPentiumIIの後継としては無難なチップで、性能もそこそこ、 価格もそこそこだったので、まあ順調に売れ出している。ち なみにチップサイズは190平方mm、消費電力は18Wで、「回すと」よりだいぶ善人である。 性能は500MHz版でSPECint95=25,SPECfp95=22程度で、$1200で売り出された。

  近頃は、PC互換機関連のメーカーの中で自社でMPUも生産しているメーカーは陰照や微軟から多少距離を置くようになってきた。 特に、国際仕事機械、DEC、AMDなどはPowerPCとの関係がより深くなったこともあり、 陰照との交渉の席で、場合によっては陰照系チップから完全に決別するというカードをちらつかせるようになっている。 特にDECは陰照との特許侵害訴訟の和解で得た少なからぬ額を自社のAlphaチップの開発費に当てると同時に、 自社ブランドのPC互換機にはサーバからノート型まで一切陰照チップを使用せず、 互換チップを載せて出荷している。 また、国際仕事機械はRhapsody for Intel(といってもチップはAMD製だが)をインストールしたPC互換機を売り出している。

  諸行無常とはよく言ったものだ。 21世紀に向けて、ついにMPU界も大きな激動の時代を迎えようとしているのか? 果して、陰照のシェアは揺らぐのか? 新たなるアーキテクチャが生み出されるのか? 果して、次の10年間の覇権を握るのはどのメーカーなのか。

  さあ、3回シリーズも今回が最後であるが、いかがだったであろうか? 結構ありそうな雰囲気(だけ?)を狙って書いてみたが、 現実にはこうはならないことは我輩が保証する。 まあ、シェアの数字とかは適当だが、 チップの性能予測に関しては結構真面目にやったつもりではある(チップ名は適当だが)。 ところで、これを書きあげた後で、 国際仕事機械が1GHzを達成というニュースが入ってきた(まだとっても高いチップだけど)。 こりゃ、予想を上回る開発速度だな。 う〜む、国際仕事機械、恐るべし。危うし、陰照!君は生き残れるか?

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