Tales of Mados & Ringos / 真・窓と林檎の物語
トップ窓と林檎 → 米の国の…2 1997.12.22

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真・窓と林檎の物語
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米の国の長者(後編)

※ この文章は電脳情報別冊に掲載されたもののため、一部表記が通常と異なります。

  前編は広告の嘘の話で終わったが、 本国だけでなく微軟の日本法人にもいろいろと顔をしかめるような話が絶えない。 それらの詳細はここでは触れない(詳しくは姉妹サイトを参照)が、 単なるエゴじじいのなせる技という気がしないでもない。 そんなことだから、部下である課長さんは95に関するインタビューで平然とこんなことを言い出す。

「Macを真似したと思われても仕方がない。だってX-WindowもNeXTSTEPも似たようなもんでしょう!」
あのなー、君にはプライドというのはないのかい? 世界最大のソフトウェアメーカーが他社の技術を「勝手に拝借しました。」 と宣言したところで、笑いものになるだけだ。しかも、このタコ課長、何を血迷ったか、
「Windows95は何よりMacユーザにお勧めです。」
などと妄言を吐き出す始末。よく今までMacユーザに後ろから襲われなかったな。 PC互換機のハードウェアのコストパフォーマンスが優れているのは認める (これはハードウェア市場の競争原理が正常に機能しているからだ)が、それとOSの優秀さには何の関連もない。 実際、Windows95に当時のMacOSを凌駕する機能はほとんど皆無だったと言っていい。 もしあったとすれば、マウスの右ボタンが使えることと、 いちいち個別にアプリに割り当てるメモリを調節しなくてもよい点くらいだ。 その他は両者に機能的な差はほとんど存在しなかった。 MacOSの方が数年前からそれらの機能を実現していた分、熟成されていていくぶん有利であった。 システムやハードウェア資源の管理に関しても、 それをうまくメタファに包み込んだMacOSの方がまだシンプルで理解しやすいものであった。

  最近では、PC互換機のOSとしてOS/2を押し退けてFree UNIX系(Linux、FreeBSD)が第2位に上がって来ているという報告もある。 実際UNIXは、それを使える者にとってはWindowsなどより数十倍も強力な武器となる。 特に昨今のネットワークに比重をおいたコンピューティングではなおさらだ(特にサーバの構築)。 書店に行くとフリーUNIX関連の書籍が一大勢力を築きつつある。 PC互換機市場はハードウェア市場はそれなりに健全だが、OSは独占されていて風通しが非常に悪い。 Free UNIXが元気なのも微軟と逆の文化を広めようという努力があり、 それを欲している人々が多いからに他ならない。 Macの市場はハード、OSともAppleが独占しているが、独占しているだけのリスクと責任を負っている。

  さて、門様を語る際に避けては通れない男がもう一人いる。 そう、Apple Computerの創業者、Steven P. Jobsだ。電子の世界で「米の国の夢物語」を成し得たこの二人は、 その対照的な生い立ち・性格・行動から常に人々の話題になって来た。 NeXT社がハードウェアから撤退し、OS専門のディベロッパになってからはあまり表舞台に立っていなかったJobsも、 少し前にAppleによるNeXT Software社の買収に際して電撃的に復帰してから、 日増しにその発言力を強め、再び会社を大きく右に左に揺らしている。 両親が弁護士という恵まれた裕福な家庭に生まれ育った門様に比べ、Jobsは養父母に育てられた孤児で、 電話機をハックしたりインドを放浪したりと、カウンターカルチャーを経験して来た。 門様は微軟で、JobsはAppleで莫大な富を手にして一大帝国を築いたわけだが、 この二人には決定的な違いがある。一言で言えば、Jobsにはプライドしかないのに対し、 門様にはプライドがないのだ。言葉を変えれば、「成功した技術を乗っ取る」ことに門様は何の躊躇も示さない。 要するに、門様を一言で評するとすれば、「プライドのかけらもないクレバーな経営者」であろう。 対するJobsは「プライドだらけの雄弁なセールスマン」といったところか。

  門様は売れると判断すれば、他社からなんでも奪い取ろうとする。 ちゃんと買い取ればいいところを、無断で拝借して裁判所に呼び出されたりする。 なんとしても自社で開発するんだ、というプライドはなく、 他人が先に作ってようやく売れ始めた技術に目をつけ、 去年自分が「そんな技術は売れない」と笑い飛ばしたこともすっかり忘れて自社の製品に組み込んでしまう。 狭義のコンピュータソフトウエア(プログラム)に関する著作権はいまだに非常に微妙な問題なのに、 門様は灰色ぎりぎりのところを素早く走り抜けてしまう。売れる、儲けになるモノには異様な執着心を示す門様。 他人のものが欲しくなると手に入れるまで攻撃の手を休めない門様。 Windows95もInternet ExplorerもNetPCもMSNも全て他人の成功した(あるいは、成功しそうな) 考えを後から真似したものに過ぎない。今度はJAVAを食い物にしようとしている。

  普通、エンジニアやクリエータには、「真似する=負けを認める」という感覚が少なからずある。 それより良いモノを考え付けなかったことを示すことになるからである。し かし、プライドが全く存在しない門様は、エンジニアやクリエータの類の人間ではなく、 純粋に「クレバーな経営者」という形容がぴったりだ。 プライドで凝り固まった自分の理想を売って歩いたJobsとはまさに好対照である。 というか、Jobsには経営者の才能はゼロで、ひたすらプライドと理想だけがあったと言ってよい。 我輩は門様がUNIXに興味を持ち始めたらAppleは沈没すると以前から思っていたが、 NeXTSTEPでUNIX系のマシンを手掛けたJobsがAppleに復帰したことで、Apple沈没の可能性は多少薄れた。 UNIXに対する食いつきの度合の差が、今後の二人の明暗を分ける予感がするのは我輩だけか。

  門様はその著書、"The Road Ahead"の中で米の国の情報ハイウェイ構想がもたらす薔薇色の未来について、 多くの実例と予測を用いて描写している。あらゆる情報がいつでもどこでも誰でも引き出せるようになる。 通信のコストは無視できる程度まで減少し、コンピュータは信じられないくらい小型で高性能になる。 「ほんと、そうなればいいね。」というのが我輩の率直な感想だ。 確かに、「こういう未来が欲しい」という門様の欲望、嗅覚が非常に鋭いのは認める。 が、過去にあった多くの「未来の技術」予想がそうであったように、 我輩にはこの著書があまりに楽観的すぎる物語であるという気がしてならない。 基本的に、全ての予測に際して、コストの計算をあまりに低く見積もっているのだ。 通信のためのインフラが整備され通信料が劇的に安くなるのは認めるとしても、 そこを流通する情報を生み出すコストについてほとんどゼロだと誤解しているようだ。 大企業が10年かかって蓄積したデータベースを総ざらいして初めて得られるような情報に、 10円や20円でアクセスできるようになるとは到底思えない。 こんな感じの薔薇色の未来が彼の著書には散りばめられ、 その通りにやったら一日の情報アクセス料だけで数十万円になるのではないか、という感じさえする。 彼のような金持ちにはそんな金額は関係なくて、「できる」ということ自体が重要なのかも知れんが、 それでは「万人のために」という見え透いた崇高なスローガンが霞んでしまう。 やりたい事と実現することは残念ながら違うのだ。

  しかし、とにもかくにも、この世は資本主義のルールで動いている。儲けた方が勝ちだ。 門様を嫌いな奴は多いが、彼は決して馬鹿ではない。馬鹿が長者番付けのトップにつけるほど、 米の国はノーテンキではない。実際、コンピューティングの新しい潮流は全て米の国からやって来る。 今の微軟はちょうど一時期のマイク・タイソンのように、強い挑戦者に恵まれない不幸なチャンピオンなのである。 天才には互いに切磋琢磨するライバルがつきものだが、 あまりに大きな存在になってはもはや進化の袋小路に陥ってしまう。 実際、アンモナイトの例にもあるように、種が絶滅する前には個体の大きさが異常に大きくなると言う。 微軟の売上も総資産も異常なほどに巨大化した現在、 米の国のクレバーな長者はこの歴史の教訓の意味を噛みしめているに違いない。

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