Tales of Mados & Ringos / 真・窓と林檎の物語
トップ窓と林檎 → その林檎… 1997.07.14

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真・窓と林檎の物語
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その林檎は腐ってしまったのか?

  このところ、林檎会社はまるで積乱雲の中を進む飛行機のようである。 揺れる気流の中を視界も悪いまま、ただひたすらに飛び続けている。 突然の押し上げるような上昇気流もあれば、 恐ろしい加速度の下降気流もある。 まっすぐ目的地へ向かっているかと思えば、 思わぬ横風に機体が流されていたりする。 いったい、いつになったら視界が開けるのだろうか?

  「塞翁が馬」という故事がある。 その昔、要塞の近くに住んどったじいさんは馬を飼ってたが、 ある日その馬がいなくなってしまった。 近所の人がお悔やみに行ってるそばで、 当のじいさんは「これがとなるかもしれんぞ」という。 しばらくしてその馬は上等な馬を何頭か連れて帰って来た。 今度は近所の人がお祝いに行くと、 またヒネクレじいさんが「これがになるかもしれんぞ」という。 案の定、じいさんの息子がその馬に乗っていて落馬し、骨折してしまった。 でもって、またまた近所の人がお見舞に行くと、ヒネクレじいさん、「これがとなるかも知れん」と言い出す。その後すぐその近くで戦いがあり、 多くの若者が戦場で命を落したが、 その息子は骨折していて兵隊に取られなかったと言う。 じいさんは単にヒネクレていただけなのだろうか? それとも物事の摂理を見抜いていたのだろうか?

  この故事と同じく、林檎会社の運命も右に左に大きく揺れている。 元ローラの六八系チップが行き詰まった時は困ったが、 信じられないくらい上手に新たなチップに乗り換えた。 で今度は系統八が行き詰まってどうなることかと思ってたら、 存在か?と見せかけておいて次を買い込んで、 狂想曲なる新しい操作系統と旧系統の進化版の二系統でいくことになった。 戻って来た伝説の創業者は移り気で、林檎会社をうまく丸め込んで、自分の友達を役員会にずらり揃えて、自分はCEOにおさまったそうな。 会社の外では、以前にも太陽に吸い込まれるという話も何回も出たし、 この前もどこかの神託な気まぐれオヤジ(がJobsのお友達なんだが)が財布の中身をちらつかせて乗っ取りを図った。 そうかと思えば、この前は首の太いオヤジが突然追い出されたり、微軟と仲良くする振りをしたかと思えば、力計算を買い込んで、ライセンシングを水に流したり。まったく、話題に尽きない。

  ある人が言った。「ピンチこそ最大のチャンスなのだ」と。 これはある意味で真理である。 何事もうまく行って順風満帆なときは、誰も大胆で徹底的な改革をしようとは思わない。 ピンチで行き詰まっている時こそ、方向を大胆に見直し、取るべきは取り、 捨てるべきは捨てて軽くなれる。ま、海面すれすれの低空飛行のまま、 海面に激突して墜落する可能性もないとは言えんが。

  結局、系統八が行き詰まったこと(これは形を変えて発売されたが)で、 結果的には狂想曲で系統の世代が一気に二つ進むことになったし、 袋小路に陥った元ローラの六八系チップを諦めたことで、 結果的には安価で高性能なPPCチップを手にすることになった。 特に、チップの乗り換えを先に経験したことは、 これからのMPU戦争にかなり有利に作用する。 帳面型計算機では電気食いのチップは敬遠されるので、 この分野では特に大きく躍進できる可能性がある(たくさん生産できれば、だが)。 このように林檎会社は会社を左右する重大局面を幾度となく経験している。 さらにはヘッドをよく取り替えるが、 ヘッドはそれぞれなんらかの土産を置いていった。 Jobsは革新的なコンピューティングのスタイルと様々な伝説を残していったし(また戻ってきていろいろ悪さをしている)、 スカリーは砂糖水会社からやってきて林檎会社の売り上げを何桁も増やし、帳面型の林檎も売り出した。 スピンドラーの時にはPPCへの移行を手品のように波風を立てずに成功させた。 が、このころから林檎がただの工業製品に成り下がったという批判をする人もいる。 そして、今度追い出されたアメリオ博士は、自前で核を開発することを諦め、外から次を買い取って狂想曲なる荒業で防戦一方から一気に攻勢に転じる下準備を整えた。ついでにかなりの贅肉を削ぎ落としたが、それがもとでかなりの反感を買ってしまったようだ。ま、会社の肉を削ぎ落とすのに使われた憎まれ役だったということか。次の会社から来た輩が林檎会社の重要な役職を占めるのに我慢ならなかった輩も多かったようだが、多少の我慢は必要だ。次の技術は林檎にはない輝きを持っている点は間違いないのだから。

  会社を大きく左右する局面を何度も経験してきた林檎会社に比べ、 微かに軟らかな会社は、そのような重大局面に対する経験はまったく薄い。 さらに、ヘッドである門様のカリスマが強すぎて、 他の人の顔が全く見えてこない。 微かに軟らかな会社では、それだけ門様の統制力が優れているとも言えるが、 言い換えると門様がコケると会社全体がコケるわけで、 考えようによってはかなり危険な状態であるといえる。 門様の健康管理にはおそらく莫大な金が使われているとみて間違いない。 林檎会社にはそのような強力な指導者は存在しないはずであったが、Jobsが戻ってきて話がややこしくなった。 彼には強力なカリスマ(と話術)はあるが、指導力があるとはとても思えん(以前よりはずいぶん大人になったが)。

  で、林檎会社の上層部にしっかりと頭に置いておいてもらいたいことがある。 目先の利益が欲しいタコな株主によって、 いま林檎会社は「林檎所有者より株主重視へ」と、かなり無理な舵取りを要求されている。 株主達は直接の出資者は自分たち株主であると思いがちだが、そうではない。 世界に数千万いる林檎使用者なのだ。 林檎というプラットフォームは、このまま消え去るにはあまりに強力で、 あまりに膨大な数なのだ。 これをぜひ念頭に置いて新しいヘッドを選んでもらたいもんである。

  林檎はもう腐ってしまったのだろうか? いいや、その輝きはまだ完全に失われてはいない。 そう、最後の審判を下すのは、狂想曲の流麗な調べを聴いた後でも遅くはない。

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